レクイエム・フォー・ドリーム

2009年にイギリスの映画雑誌「エンパイア」が発表した「落ち込む映画」ランキング1位、だそうですよ。
内容は、麻薬ダメ!絶対!の一言に尽きるかと思う…んだけど…
身近に麻薬という存在がないためか、基本的にドラッグ系の映画は「やるやつがだめ→やったやつは罰せられて当然」みたいな意識があって、麻薬を使った人がどんどん深みにはまって取り返しがつかない場面にきても、「そりゃひどい目にあって当然だろ」って思っちゃう部分があるのね。
でもこの映画では、ドラッグをキメてる主人公たちも、ただ少し心に隙間があっただけの、本当に普通の人だったことが上手に描かれてる。
だから、見た後に落ち込む。
主人公ハリーは初っ端から、テレビ大好き!毎日の楽しみはテレビだけ!な母親からテレビを分捕って質入れして、ドラッグを買う金を手に入れてます。その時点でもう「こいつはひどい目にあって当然」みたいな布石がドカンと置かれちゃってるんだけど…
その後、ハリーも、ハリーの相棒タイロンも、実は家族のことが好きで、母親に孝行したくて、恋人の夢を叶えたくて、ただそのちょっとした隙間にドラッグがあっただけという事がエピソードとして挟まれてくるのです。
「落ち込む映画」というカテゴリわけからもわかるように、主人公たちは当然のように奈落に落ちていきます。
最初の布石がそのまま生き続けていたら、その結末は当然の落ち着く場所だと納得できるんだけれども…
その前にはさまれた、彼らの夢や、一時的に浮上した幸せな時間、母親への気持ちを見ると、そこでやめときゃよかったのに…みたいに考えてしまって、すごく胸が苦しくなる。

特に胸がギュっとなったのが、タイロンの子供時代の映像。
(以下5行ほどネタバレです)

幸せなある日、ふと思い出すのは、日がサンサンと差し込む部屋に駆け込んでいく、子供時代の自分の姿。
母親に抱きしめられながら、大好きなママと小さな約束をするタイロン。

ラストシーン、どん底に沈んだタイロンが体を丸めながら思い出すのは、このママとの約束の思い出なのです。

さいころに描いていた小さな夢の終わりを感じさせて、思い出すだけで喉の辺りにググっとくるものが…

■■■■■ネタバレ終わり■■■■■


ちなみに、一番胸にズズーンとくるのは、ハリーの母・サラのエピソード。
サラは、夫が死に、ハリーも出て行ったっきり帰ってこない、友人も訪ねてこない、そんな孤独の日々の中でテレビを見ながら甘い物を食べるだけが楽しみという生活を送っているのです。
…すでにこの時点で胸がギュウっとなるわけですが…
そんな地味で暗い生活の中、明るい手紙が舞い込んできて、浮かれて、期待して、変わりたいと願ううちに道を踏み外していくサラの姿は、切ない通り越して、怖い。ただひたすらに怖い。サラパートは、ホラーといっても間違いないと思います。

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ラスト15分にはかーなーり!えげつないシーン(エロ方面でもグロ方面でも)が入っているので、当然地上波では絶対に放送は無理だろうし、万人にバンバン勧められる映画ではないのだけれど…ある意味すごく心に残るので、レンタルショップとかで出会ったら一度見てみてほしい映画です。